男性の性的魅力について
先日ツイッター(現X)で書いたことに対して少なからぬ反響があった。ああいう場はまとまった考えを出すには向かないのでふだんはそのままスルーするのだが、思うところあってここで書いてみる。以下、引用部分はすべて著作権法第32条に基づく。
経緯
当初書いたのは、
(1)男性の「背が高い」とか「肩幅が広い」といった属性は女性の「胸が大きい」と同程度に性的魅力であるということは少女マンガの男性キャラクターをみればわかる
という話であった。それに対して「それはちがう。性的な意図はなく「守られたい」という感情である」という趣旨の反論をいただいたので、
(2)「守ってくれそう」という感覚は性的欲求である
と返答した、というのが流れだ。影響力のあるアカウントにシェアされたのであろう、それに対して賛否両論がリプライ欄にあれこれ寄せられていたが、そうなると文章を読まない面々、荒っぽいことばの面々が入ってくる。そういう場には参加しないことにしているので、基本的には放置することにしているのだが、中にはまじめな意見もあったりするので、場を改めて書いてみることにしたという次第。
根拠
上記の主張は自分には専門外なので、他人の研究成果などを根拠としている。とはいえこれまでちゃんと確認したものばかりでもなかったので、改めて調べてみた。
(1)少女マンガの男性キャラクターデザインにおける性的魅力
論点(1)はマンガのキャラクターデザインに関するものだ。
一般論として、マンガのキャラクター、特に対象読者層にとっての異性で好感をもたれるよう設定されたキャラクターは多くの場合当該読者層が好むようデザインされる、というのはさすがにあらためて根拠を挙げる必要もないだろう。つまり、(多くは異性愛者であろう)女性読者を対象とした少女マンガにおける男性キャラクター(特に主人公である女性キャラクターの相手役として設定されているもの)である。もちろん、マンガのキャラクターデザインを現実世界での男性の性的魅力に直結させるのは雑な議論ではあるが、少なくとも傍証ぐらいにはなるだろう。また、少年マンガの女性キャラクターの胸が大きく描かれがちであることをもって男性の性的嗜好を語る(これも雑な議論ではある)人々は多くいるので、もとよりそれと同程度の議論ではある。
では、そうした男性キャラクターのデザイン上の特徴はどんなものか。
少女マンガはこれまでさまざまな分析の対象となってきており、その中にはキャラクターデザインについてのものも多くあるのだが、みたところどういうわけか女性キャラクターについてのものが多く、男性キャラクターを対象としたものは相対的に少ない。ただ近年多様化が進んでいるといった記述は複数みられた。今は高身長で肩幅の広い典型的な体形でないものが少なくないということであろう。
イメージしていたのは、SNSなどでよく流れてくる、女性向けの異世界転生ものなどの王子様キャラだ。高確率で女性主人公に対して圧倒的な高身長で肩幅の広い体形をしている。伝統的な男性優位の男女観を反映した作品ではそういったキャラクターデザインになりやすいということであろう。これと似ているように思われるのがBLマンガの男性キャラクターで、これを扱った研究は複数みられる。BLにおいては女性読者が自身の性的まなざしに自覚的であるということなのかもしれない。
BLマンガは少女マンガではないという批判は甘んじて受けるが、しかたないのでそれらをみてみると、女性読者が好む男性キャラクターの体形的特徴の代表的なものは高身長や肩幅の広さ、すなわち典型的な男性的とされる身体特徴である。BLでは男性キャラクターにも「攻め」と「受け」があるが、ここでのポイントは、多くの場合「攻め」が「受け」よりも男性的な身体特徴、すなわち高身長と広い肩幅を強調した体形として描かれているということである。
「テーラードスーツが作る「正しい」男性身体とは、次の様な形式である。胴回りを絞る形状の上着は、肩から胸にかけて厚さと広さを強調し、広い両肩から逞しい腕がまっすぐに伸びている」
「BL に描かれる「攻」と「受」の表象からは、彼らの恋愛関係は、構造的に「成人男性と未成熟な男性または女性性」という家父長制の権力構造が再生産されていると言わざるを得ない。また、男性性とエロティックを結びつけることで、一見するとこれまでにない新しい男性性の表出のようにも見えるが、留意したい。例えば、攻の「高身長、筋肉質な体格、容姿、知能、社交的」という表象は、テーラードスーツが作る近代の「正しい」男性性と同じであり、これも従来型男性性の表象である」
「僧帽筋や胸筋、腹筋、三角筋、腕橈骨筋などしっかりと筋肉が表現され、肩周りも骨格がしっかりしていることが分かる。受との差を見ても、体格の良い男性的な身体となっている」[1]

図1:参号ミツル『マスク男子は恋したくないのに』(川野他021, 2022)

図2:参号ミツル『マスク男子は恋したくないのに』(川野他021, 2022)
図1及び2はこの論文に引用されている事例(孫引き失礼)だが、攻めと受けの体形差がよくあらわれている。
BLにおいて「体格差萌え」は王道なのだそうで、そうでない例も少なくないものの、王道としては攻めはより男性的な体形、すなわち高身長と広い肩幅でデザインされる(実際には、現実の男性の体格と比べて肩幅がことさらに広いわけではなく、むしろウエストを現実以上に細く描くことで逆三角形に見せるということのようだ)。
上掲論文 [1] にある通り、BLにおける「攻」と「受」の表象から「成人男性と未成熟な男性または女性性」という家父長制の権力構造の再生産を読み取るのはジェンダー研究の定番なので、受けには女性が投影されていると解釈されることが多い。BLの攻めと受けのどちらを好むかは人によって異なるだろうが、少なくとも攻めのキャラクターを好む読者層にとって、高身長で肩幅の広い体形は好ましいものと映っているだろう。
マンガの技法的にはこれはある意味「定番」であって、男性キャラクターをより魅力的にみせるためには上半身を逆三角形に描くというのは初心者向けのマンガの描き方などにも出てくる。
「男性の体は全体的に見ると直線的な逆三角形、または長方形の形に近くなります。丸みをつけてしまうと、女性的な男性になるので、男性らしさを表現したい場合には注意しましょう」[2]
![Palmie お絵かき図鑑 [2]より](https://d2fuek8fvjoyvv.cloudfront.net/hyamaguchi.theletter.jp/uploadfile/699b371f-07dd-4248-87dc-67c496012d52-1781277321.jpg)
Palmie お絵かき図鑑 [2]より
少年誌に少女マンガ的なスタイリッシュな絵柄や「スタイル画(コマをぶち抜いて全身を見せる手法)」 が持ち込まれた歴史を分析する際、「肩幅の広い逆三角形で足が長く、スタイルがいい」 という、従来の少年マンガの泥臭い筋肉質とは異なる、少女マンガ由来のスタイリッシュな男性体型の記号(少女マンガ風のヒーロー像)として「逆三角形」が言及される。以下は高橋留美子『うる星やつら』の主人公、諸星あたるについての記述だ。
「主人公の諸星くんは、【80年代ファッション】でばっちり決めてます。肩幅の広い逆三角形で足が長く、スタイルがいいですね」 [3]
(2)現実の男性の評価における性的魅力
身長と肩幅
論点(2)は現実の男性の体形に関するものだ。
上記のマンガのキャラクターデザインでみられた男性らしい体形への嗜好は、現実の男性に対する評価でもみられる。女性が身長が高く肩幅(SHR: Shoulder-to-Hip Ratioで定義される)が広い男性を魅力的と感じるという研究はいくつもある。
①身長
“women are most satisfied when their partner was 21 cm taller, whereas men are most satisfied when they were 8 cm taller than their partner” [4]
(女性はパートナーの身長が21cm高い場合に最も満足し、男性はパートナーの身長が8cm高い場合に最も満足する)
→身長差に関する好みは男性より女性の方が強いようだ。
“for men born before 1965, a 1% increase in height led to an approximately 0.56% increase in the probability of being married. Conversely, for women born before 1965, a 1% increase in height led to an approximately 0.56% decrease in the probability of being married. … For men born in or after 1965, a 1% increase in height led to an approximately 1.05% (0.18%) increase (decrease) in the probability of being married (divorced).” [5]
(1965年以前に生まれた男性の場合、身長が1%増加すると、結婚する確率が約0.56%増加した。逆に、1965年以前に生まれた女性の場合、身長が1%増加すると、結婚する確率が約0.56%減少した。・・ 1965年以降に生まれた男性の場合、身長が1%増加すると、結婚する確率が約1.05%増加し、離婚する確率が約0.18%減少した)
→日本における研究である。日本で見合い結婚と恋愛結婚の割合が逆転したのは1960年代半ばとされる。恋愛結婚が主流になるにつれ結婚市場において男性が高身長であることの価値が高まったのかもしれない。
. . . this study reveals a negative selection of short men on marriage. . .. [6]
(この研究は、結婚において背の低い男性が不利な選択を受けることを明らかにしている)
②肩幅
“The most prominent physical feature defining men's attractiveness is their physical fitness and upper body strength. Shoulder-to-hip ratio (SHR), a sexually dimorphic trait in humans, is an indicator of men's attractiveness for both men and women.”
“As the first study investigating the brain activity in response to upper body size perception, findings of the current research signify evolutionary adaptive importance of men’s upper body size compared to that of women’s at the neural level.” [7]
(男性の魅力を決定づける最も顕著な身体的特徴は、体力と上半身の筋力である。肩幅と腰幅の比率(SHR)は、ヒトにおける性的二形性を示す指標であり、男性にとっても女性にとっても男性の魅力の指標となる)
(上半身のサイズ認識に対する脳活動を調査した初の研究として、本研究の結果は、神経レベルにおいて、女性の上半身のサイズと比較して男性の上半身のサイズが進化的に適応上重要であることを示唆している)
“Males with high SHR and females with low WHR reported sexual intercourse at an earlier age, more sexual partners, more extrapair copulations (EPC), and having engaged in more instances of intercourse with people who were involved in another relationship”
”Males who reported EPCs had higher (t = 3.53, P < .01) SHRs (M=1.21 ± 0.015) than those who did not (M= 1.14 ± 0.010) and higher (t = 2.06, P < .05) WHRs than those who did not (M= 0.844 ± 0.009)”
“Males who reported having been an EPC partner had higher (t = 3.72, P < .01) SHRs (M= 1.23 ± 0.025) than those who did not (M= 1.15 ± 0.008)” [8]
(SHRが高い男性とWHRが低い女性は、性交開始年齢が早く、性交相手の数が多く、配偶者以外の相手との性交(EPC)が多く、別の関係にある人との性交経験が多いと報告された)
(EPCを報告した男性は、報告しなかった男性よりもSHRが高く(t = 3.53、P < .01)、WHRも高かった(t = 2.06、P < .05))
(EPCパートナーであったと報告した男性は、そうでない男性に比べてSHRが有意に高かった(t = 3.72、P < .01)(M = 1.23 ± 0.025 vs M = 1.15 ± 0.008))
“. . . selection analyses revealed consistent directional selection favoring taller men with a more V-shaped body and a larger penis.” [9]
(選択分析の結果、背が高く、V字型の体型で、ペニスが大きい男性を優遇する一貫した方向性選択が明らかになった)
この高身長や広い肩幅といった体形は男性の肉体的強さを示唆する。その意味でこれは「守ってくれそう」な印象を与える要素であるとみてよいだろう(実際、「守ってくれそう」は「高身長、広い肩幅」が与える印象として主張されたものだ)。
「守ってくれそう」
女性の配偶者選択において「守ってくれそう」という印象が有益に働くのは(そうあるべきかどうかは別として)ある意味自然であろう。メスの生殖戦略(性的欲求の基盤である)として保護を与えてくれそうなオスが配偶者に選ばれやすいという動物では珍しくない傾向と整合的な傾向が人間においてもみられるということは、数多くの研究に裏付けられている。
「守ってくれそう」と性的欲求はちがう、という反論は多い(実際、無関係な場合も多いだろう)が、結びつくことがありえないというわけではない。実際、「守ってくれそう」という感覚は、しばしば性的魅力や配偶者選好と結びついている。
女性の性的欲求や反応のメカニズムに関する心理学・医学的な代表的な理論の1つにRosemary Bassonの「非線形性的反応モデル」(Nonlinear response model)がある。性的な動機は感情的親密さへの欲求から始まり、『親密さへの欲求 → 性的刺激 → 興奮(Arousal) → 反応的性的欲求(Responsive Desire) → 親密さの強化 → 次回への動機』という循環的プロセスであるとする。
“A stronger recognition that women’s sexual response more commonly stems from intimacy needs rather than a need for physical sexual arousal leads to an alternative understanding of women’s sexual desire . . .”
“The rewards of emotional closeness—the increased commitment, bonding, and tolerance of imperfections in the relationship—together with an appreciation of the subsequent well-being of the partner all serve as the motivational factors that will activate the cycle next time.“ [10]
(女性の性的反応は、肉体的な性的興奮への欲求よりも親密さへの欲求から生じることが多いという認識が強まることで、女性の性的欲求に対する新たな理解が生まれる)
(感情的な親密さから得られる恩恵――関係へのコミットメント、絆の深まり、そして関係における不完全さへの寛容さ――と、パートナーの幸福感への感謝は、いずれも次のサイクルを活性化させる動機付け要因となる)
このモデルは「守られたい」欲求を直接扱うものではないが、情緒的安心感や親密性が性的欲求の前提となる可能性を示唆している。性的欲求は、「この人は私を守ってくれる」「ここには脅威がない」という精神的な安全(安心感・包摂感)が確保されて初めて解放される。その意味でこの欲求は性的欲求の「前駆状態(手前のステップ)」に含まれる。その意味でBassonのモデルでは「守られたい」と性的欲求は区別されているのだが、後者の前提として前者があるという連関はあるといえる。
そして実際、「守ってくれそう」は人間を含む動物一般において配偶者選択の有力な要因となる。もちろん人間の女性の配偶者選択は動物よりはるかに複雑だが、それでも保護を与えてくれそうな男性を魅力的と感じる傾向は多くの研究でみられる。
“Because females invest more in offspring, selection favors female preferences for males who can increase offspring survival through resources, territory defense, parental care, or social status.”
"Where male parental care is involved, females certainly sometimes choose males on the basis of their ability to contribute parental care."
"There is good evidence that American women tend to marry up the socioeconomic scale..." [11]
(メスは子への投資が大きいため、資源提供・縄張り防衛・育児・社会的地位などを通じて子の生存率を高められるオスを選好するよう進化する)
(オスによる親としての世話が存在する種では、メスはしばしば、そのオスがどれだけ子育てに貢献できるかを基準として配偶者を選ぶ)
(アメリカの女性が社会経済的地位のより高い男性と結婚する傾向があることを示す有力な証拠がある)
“Females were found to value cues to resource acquisition in potential mates more highly than males. Characteristics signaling reproductive capacity were valued more by males than by females.” [12]
(メスはオスよりも、潜在的な配偶者における資源獲得の手がかりを高く評価することがわかった。一方、生殖能力を示す特徴は、メスよりもオスによって高く評価された)
“Discovering that a person is willing to protect greatly increased their attractiveness as a romantic partner or friend, regardless of their strength.” [13]
(ある人が守ろうとする意思があることを知ると、その人の強さに関係なく、恋愛相手や友人としての魅力が大幅に高まった)
“The current study explored women's preferences for formidable men under safe vs. harsh ecological conditions.”
“women rated stronger men as more attractive than weaker men irrespective of the ecological condition”
“women had a relatively stronger preference for stronger men for short-term relationships in a resource scarce ecological condition.” [14]
(本研究では、安全な生態学的条件と厳しい生態学的条件の下での、女性の力強い男性に対する好みを調査した)
(女性は生態学的条件に関係なく、より強い男性を弱い男性よりも魅力的だと評価した)
(資源が乏しい生態学的条件では、短期的な関係において、より強い男性に対する比較的強い好みが見られた)
付記しておくと、元のツイートに追加して書いた、「男女とも体のうち最も性的魅力のあるパーツは顔」というのもアイトラッキングを使った研究成果が複数ある。「整った顔は遺伝的形質の優秀さを示唆するものであり、配偶者として望ましい形質のシグナルとされる、と説明されることが多い。
“We measured the eye movements of 43 male and 67 female subjects while viewing sexual scenes (intercourse; Experiment 1) and static erotic stimuli (nude and clothed men and women; Experiment 2)”
“Dwell times were the longest for faces and faces were the most likely to be looked at first. In Experiment 1, males looked more at female chest, buttocks, and genital areas while female participants looked more at male faces. In Experiment 2, faces received more fixations for clothed stimuli, whereas chest and genital areas received more fixations for nude stimuli.” [15]
(男性と67名の女性被験者が性的な場面(性交;実験1)と静止した性的刺激(裸の男性と女性、服を着た男性と女性;実験2)を見ているときの眼球運動を測定した)
(注視時間は顔が最も長く、最初に注目される可能性も最も高かった。実験1では、男性は女性の胸、臀部、性器領域をより多く注視し、女性は男性の顔をより多く注視した。実験2では、服を着た刺激では顔への注視が多く、裸の刺激では胸部と性器領域への注視が多かった)
“The first fixation typically landed on the face; moreover, faces were inspected for the longest duration”
“prior studies have provided contradictory evidence regarding the primacy of examining the face versus other body regionswhen viewing full-body images”
“Our high-resolution eye tracking data confirmed that even when the chest and genital regions of figures were made sexually salient by removal of the clothes”
“these data suggest that the face is indeed themost relevant signal forhumaninteractions, and human observers strive to grasp the information conveyed by the face first”.
“Although faces were, in general, inspected first and longest, this tendency was dramatically reduced when the bodies were presented without clothing.” [16]
(最初の視線は典型的には顔に注視され、さらに、顔は最も長く観察された)
(全身画像を見る際に顔と他の身体部位のどちらを優先的に観察するかについては、先行研究で相反する結果が示されている)
(高解像度の視線追跡データにより、衣服を脱がせて人物の胸部や性器を性的に強調した場合でも、視線はまず顔に注視されることが確認された)
(これらのデータは、顔が人間同士のコミュニケーションにおいて最も重要な信号であり、人間はまず顔から伝わる情報を把握しようとすることを示唆している)
(一般的に、顔は最初に、そして最も長く観察されたが、衣服を身に着けていない身体が提示された場合、この傾向は劇的に減少した)
なぜこんな議論が起きるのか?
もちろん、以上の話はさまざまな研究の成果から考えられる一般的な傾向であり、全員がそうであるともそうであるべきとも言っていない。一般的な傾向と異なる考えや好みを持つことは自由であって批判されるいわれはない。研究結果は誰の個性も選択も否定していない。
当たり前すぎていわずもがなだが、背が高いとか肩幅が広いとかが男性の性的魅力であるということは、背が高い、あるいは肩幅が広い男性は全て性的魅力があると主張しているわけでもないし、すべての女性がそうした男性を好むということでもない。それは、一般に胸の大きな女性が男性に好まれやすい傾向はある(これも傾向としてははっきり出ている)もののすべての男性がそうであるわけではない、ということと基本的には同じだ。
同様に、守ってくれそうな人、たとえば子どもにとっての親が、子どもからみて性的魅力があるという話でもない。「保護する」といっても、親や組織、国など性的魅力とは無関係で守ってくれる存在はいくらもあるわけで、そうしたものへの「守られたい(安全の欲求)」は、ここでいう魅力的な異性に対するそれとはあきらかに異なる。リプライ欄には、文脈からはずれた例外を挙げて「はい論破」と得意がる発言や「同じことを親に言ってみろ」みたいなdisりもみかけたが、そういうのは典型的な詭弁であって、批判にも反論にもなっていない。念のため一応書いておく。
そもそもこうした議論が起きるのは、「性的魅力」ということばの意味が立場によってちがっているからだろう。元の発言における「性的魅力」は簡単にいえば「異性愛者が異性に対して感じる魅力」という意味で使われている。それは、たとえば「性的指向」はアメリカ心理学会(APA)では「Sexual orientation refers to an enduring pattern of emotional, romantic, and/or sexual attractions to men, women, or both sexes(男性、女性、あるいは両方の性に対して持続的に向く、感情的な、ロマンチックな、および/または性的な魅力のパターン)」と定義しているが、ここでいう「性的」に近い。
批判する人たちはどうも、このことばをより狭く、もっと生々しいものととらえているのではないか。特に女性は、男性からの望まない性的アプローチ(しばしばそれは加害でもある)に悩まされている(ここでは挙げないがこれもデータの裏付けがある)だけでなく、自らの性的欲求を徹底的に抑圧するようプライミングされてきた。それをあきらかにすれば批判を受けるだけでなく、望まない性的アプローチを誘発するリスクがあるからだ。そうした人々が、他者(特に男性)がポジティブあるいはネガティブな性的魅力を感じる相手に向ける性的まなざし(それは性別に紐づいた蔑視や中傷などネガティブな視線を向ける場合も含む)に対して敏感であり、それらを拒否しようとすることは理解できる。
しかし同時に、そうした反論をしている人たちの主張の中に、女性が性的魅力の対象に向ける性的まなざしの存在自体を否定しているかのようにみえる場合が少なくない点は気になる。上記のとおり、男性からの性的まなざしを拒否したいことは充分理解できることではあるが、それを強調したいあまり、女性の性的まなざしの存在自体を否定しているのであれば、それはよろしくない。男性の中にも、女性からの性的なまなざしに傷ついたりうんざりしたりしている人がいることを見落としてしまいがちになるからだ。一部の女性たち、及びそれに共感する女性以外の人たちには、そうしたことにも心を配っていただけるとありがたい、というのが元の発言の意図である。一方、一部の男性たち、及びそれに共感する男性以外の人たちは、多くの女性たちが、一般的な男性には想像もつかないくらいの嫌な思いをしていることを頭に入れておくべきであろう。
そして最後にひとつ付け加えるなら、議論は冷静に、建設的に行いたい。たとえ「火事と喧嘩は江戸の華、炎上とバトルはネットの華」であるとしても、そうでない議論のしかたはあるべきであり、少なくとも自分はそうありたいと考えている。
参考文献
[1] 川野, 佐江子, 佐野, 暖佳(2025)「男性の身体表象についての研究 :テーラードスーツとボーイズラブ(BL)キャラクターからの考察」大阪樟蔭女子大学研究紀要巻 15, p. 57-68
https://osaka-shoin.repo.nii.ac.jp/records/2000189
[2] 「男性のイラストの描き方。ポイントは骨格・筋肉・目」Palmie お絵かき図鑑
https://oekaki-zukan.com/articles/1322
[3] 堀江純一(2021)「高橋留美子 進撃の女神【マンガのスコア LEGEND40】」週刊エディスト
https://edist.ne.jp/dust/manga40_takahashi/
[4] Gert Stulp*, Abraham P. Buunk, Thomas V. Pollet (2012) Women want taller men more than men want shorter women. Personality and Individual Differences Volume 54, Issue 8, June 2013, Pages 877-883.
https://doi.org/10.1016/j.paid.2012.12.019
[5] Yamamura E, Tsutsui Y. Comparing the role of the height of men and women in the marriage market. Econ Hum Biol. 2017 Aug;26:42-50. doi: 10.1016/j.ehb.2017.02.006. Epub 2017 Feb 27. PMID: 28260634.
[6] Manfredini M, Breschi M, Fornasin A, Seghieri C. Height, socioeconomic status and marriage in Italy around 1900. Econ Hum Biol. 2013 Dec;11(4):465-73. doi: 10.1016/j.ehb.2012.06.004. Epub 2012 Jul 6. PMID: 22819232.
[7] Pazhoohi F, Arantes J, Kingstone A, Pinal D. Neural Correlates and Perceived Attractiveness of Male and Female Shoulder-to-Hip Ratio in Men and Women: An EEG Study. Arch Sex Behav. 2023 Jul;52(5):2123-2141. doi: 10.1007/s10508-023-02610-w. Epub 2023 May 11. PMID: 37170034.
[8] Susan M. Hughes, Gordon G. Gallup Jr. Sex differences in morphological predictors of sexual behavior: Shoulder-to-hip and waist-to-hip ratios. Evolution and Human Behavior,
Volume 24, Issue 3, 2003, Pages 173-178,
https://doi.org/10.1016/S1090-5138(02)00149-6
[9] Upama Aich et al. (2026). “Experimental evidence that penis size, height, and body shape influence assessment of male sexual attractiveness and fighting ability in humans.” PLOS Biology
https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3003595
[10] Rosemary Basson (2001) The Female Sexual Response: A Different Model Journal of Sex & Marital Therapy Volume 26, 2000 - Issue 1 pp.51-65
https://doi.org/10.1080/009262300278641
https://www.imop.gr/sites/default/files/basson2000.pdf
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https://doi.org/10.4324/9781315129266-7
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https://www.cambridge.org/core/journals/behavioral-and-brain-sciences/article/sex-differences-in-human-mate-preferences-evolutionary-hypotheses-tested-in-37-cultures/0E112ACEB2E7BC877805E3AC11ABC889
[13] Michael Barlev, Sakura Arai, John Tooby, Leda Cosmides, Willingness to protect from violence, independent of strength, guides partner choice, Evolution and Human Behavior, Volume 46, Issue 6, 2025, 106745, ISSN 1090-5138, https://doi.org/10.1016/j.evolhumbehav.2025.106745.
(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1090513825000947)
[14] Garza R, Pazhoohi F, Byrd-Craven J. Women's Preferences for Strong Men Under Perceived Harsh Versus Safe Ecological Conditions. Evol Psychol. 2021 Jul-Sep;19(3):14747049211032351. doi: 10.1177/14747049211032351. PMID: 34296646; PMCID: PMC10480609.
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https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40925085/
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DOI 10.1007/s10508-012-9911-0
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