大学新卒採用活動のルールについて

6月1日に解禁となった大学新卒採用活動だが、このルールが形骸化して久しい。いつから、なぜ形骸化するのか、対策はないのか。
山口 浩 2026.06.09
誰でも

6月1日、大学新卒採用における選考活動の解禁日を迎えた、と各メディアがいっせいに伝えている。大卒の採用活動に関しては現在、政府主導で以下の指針が決められている。

3月1日 広報活動解禁: 企業説明会の開催やエントリー受付の開始
6月1日 選考活動解禁:面接や筆記試験などの採用選考の開始
10月1日 内定解禁: 正式な内定通知の開始(内定式など)

とはいえ、こうした就活ルールはあまり守られてはいない。6月1日の選考活動解禁は。実質的にはいわゆる「内々定」を出してもよいという日である。内定が労働契約(より正確には始期付解約権留保付労働契約)の成立を意味するのに対し、内々定はその予約を意味するのだが、法的なちがいはさておき、当事者の感覚としてはあまり区別されていないようだ。要は形式上ルールを守りつつ、実質的にはそれを破って採用の意思決定を前倒ししているわけだ。

2026年3月卒業者の2025年6月1日時点での内定率(内々定を含む)は81.6%だったが、ここでいう「内定率」には内々定も含んでいる [1]。内々定がルールをかいくぐるための方便になっていることが窺える。また、6月1日に内定もしくは内々定が出ているということは、いうまでもなく6月1日以前に選考を行っていることもあきらかだ。

このような形骸化したルールがなぜまだあるのかというと、ないと不都合があるからだ。企業や学生にとっては就活の長期化による負担増が問題となるわけだが、大学側にも問題がある。大学生が学期中に就活のため忙しくなれば、当然学業を疎かにすることになるという点だ。

この問題は近年始まったものではない。企業は20世紀初頭から既に学校卒業前の選考活動を行っていた [2] し、大学側と企業側との間で採用選考に関する協定が初めて結ばれたのは1929(昭和3)年のことである [3]。実情は、同年出版された就活本の記述からも伺うことができる。

少し気の早い学生になると、二学年の夏頃から、就職後に備えるが為めに縁故から縁故、知己から知己、先輩から先輩の門を巡礼する。一般の卒業者と雖も、その前年の暑中休暇頃からは、幾枚もの履歴書を懐中にして一斉に猛烈なる就職運動を開始する。先輩や縁故者の門を潜ぐるに忙殺されて、肝腎な学校の勉強はそっち退けにされてしまふ。それが為めに、就職試験には危くパスしたが、学校の卒業試験には落第してもとの木阿弥に復つたといふやうな、笑ふには餘りに痛切なる悲喜劇さへ往々に繰り返へされて来てゐる。

半沢(1929)

戦後も就職協定は幾度となく結ばれ、そのたびに破られてきた。その「なれの果て」が現在の「政府の指針」である。企業からすれば優秀な学生は他社に先駆けて採用したいし、学生からすればよい企業への就職のチャンスは限られている。一刻も早く、抜け駆けしてでもよい結果を得たいという動機には抗いがたいわけだ。

そのために授業やゼミをさぼり放題となるのでは大学にとって望ましい状態であるはずもないが、一方で卒業生がよい就職先を得ることは実績として学生募集の有力な材料になるから、いちがいに否定もできない。また、標準修業年限(一般的な大学では4年)での卒業率の悪化は、間接的にではあるが文部科学省からの経常費補助金の減額につながりうるので、その意味でも授業に出席せず成績が悪いからと就職先が決まった学生を卒業させないと自らの首を絞めることになる。

そういうわけなので、以下の記事 [4] では専門家が「採用活動の日程を示すだけで学業への妨げを防ごうというやり方は限界に来ていると思うので、情報開示をもう少し透明度高く行っていく。今までの新卒採用のあり方がよい形になっているのか一度立ち止まって見直すべきタイミングになってきているのかなと思う」とコメントしているが、100年以上前からさんざんいろいろやってきて未だに解決できない問題なわけで、「一度立ち止まって見直す」ぐらいでどうにかなるはずもない。

もし本気で状況を変えたいのであれば、かなり抜本的な変革が必要となろう。次のマンガは15年ほど前に、当時ゼミのブログで掲載していたものだ(生成AIで若干修正しているがプロットは変わらない。キャラクターは当時使っていたマンガ作成ソフト「コミPO」のプリセットキャラだ。当時はまだ財界団体が関与していたことがわかる)。これは就活解禁時期をむしろ早めて大学入学前にしてしまえというネタだが、就活開始時期を早める企業は当時実際に存在し、話題となっていた。現在ではインターンシップを採用選考に使うようになっているから、就活は3年次から、という早期化はいまや現実のものとなってきている。

この「案」は、大学の立場から、学期中に就活させるのはやめてくれという発想から出ている。もちろんこれでは企業や学生本人の「就活の長期化が負担」という問題は解決しない。特に企業にとってこれはコストにも直結する重大な問題だ。就活の長期化によって「優秀な学生を獲得できる」のはごく一部の有名・有力企業で、大半の企業は「せっかく内定を出した優秀な学生を奪われる」側だからだ。

しかし、学生や企業の行動を完全に縛ることはできない以上、彼らの問題を解決する方法はない。内定者であろうが就職後の従業員であろうが、個人の側からいったん成立した労働契約を解除することは基本的に自由なので、よりよい職を求めて個人が活動することを止めることはできない。企業の側も、より望ましい人材の確保のため、耐え難いペナルティでもなければ、ルールが変わってもなんとか抜け道を見つけ出そうとするのは当然の反応だ。

100年以上の間、学生と企業はそうしてきた。実際、1980年代半ば以降一貫して、大卒者の約3割は就職後3年以内に辞職している [5]。一方近年の内定辞退率は6割前後でさらに高い [6]が、まあ傾向としてみるならたいして変わらないともいえる。内定後、就職後とも少なからぬ者が学業や仕事の合間にさらなる就活を行い、結果として抜けた人員の穴埋めに企業人事は追われることになる。

そういうわけで、変えられるのはせいぜい「就活で学業をおろそかにする」傾向への対策ということになる。これは、就活に時間をかけるのも内定しても就活を続けるのもかまわないが、少なくとも学業をおろそかにはしないでくれという大学教員としての主張だ。上掲マンガはそれをネタにしたものだが、もう少しまじめに考えると、標準年限での卒業率を大学評価の基準の1つにしていることが障害になっているのではないか、とも思う。

米国National Center for Education Statistics(NCES)の2023年統計によると、米国全体の4年制大学で6年以内に卒業した学生は全体の64.6%である [7]。日本の標準修業年限(4年)以内での卒業率は平均して概ね8割前後であるとされているので、それよりやや低い。理由はいろいろあるだろうが、一般に「米国の大学は日本の大学と比べて入学しやすく卒業しにくい」といわれる状況の傍証となるものではあろう。

標準年限卒業率を大学の評価基準からはずせば、大学は学業をおそろかにした学生を遠慮なく落第させることができ、採用した学生が所定の時期に入社できないリスクを抱えたくなければ企業は早期の採用活動を慎むだろうし、内定をとっても卒業できず内定を取り消されたくない学生は学業に励むだろうしというわけで、問題の解決までは難しいにしてもなんらかの改善ははかれるのではないか。むろん卒業率が低い大学は受験生が避けるだろうから、むやみに卒業率が下がるということはなかろうし、少なくとも在籍する学生へのプレッシャーにはなる。

もとより「銀の弾丸」があるような問題ではないので、今後も毎年この時期に同じような議論がなされることになるのだろうが、毎年少しずつでもよりよいと思われる方向に進んでいくことを期待したい。

参考文献

[1] ㈱インディードリクルートパートナーズ「就職プロセス調査(2026年卒)「2025年6月1日時点 内定状況」」
https://www.indeedrecruit-partners.co.jp/newsroom/pressrelease/2025/0609_3672/

[2] 山口浩『就活メディアは何を伝えてきたのか』(’青弓社、2023年)

[3] 半沢成二『就職戦線をめがけて』(金星堂、1929年)

[4] NHK「採用活動スタート 5月1日時点で67%内々定 ルール形骸化指摘も」
https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015136961000

[5] 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)を公表します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00010.html

[6] リクルート就職みらい研究所「就職プロセス調査(2025年卒)「2025年3月度(卒業時点) 内定状況」」
https://shushokumirai.recruit.co.jp/research_article/20250325001/

[7] NCES. Table 326.15. Percentage distribution of first-time, full-time bachelor's degree-seeking students at 4-year postsecondary institutions 6 years after entry, by completion and enrollment status at first institution attended, sex, race/ethnicity, control of institution, and percentage of applications accepted: Cohort entry years 2011 and 2016
https://nces.ed.gov/programs/digest/d23/tables/dt23_326.15.asp

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